5AGSを使ったスズキ初のストロングハイブリッドの完成度は?
スズキ初のストロングハイブリッドは、ホンダ同様、メカニカルなギア式ミッションと駆動・回生用モーターを組み合わせたものです。
ホンダはツインクラッチでスズキはシングルクラッチとなりますが、スズキ方式ではシングルクラッチAMTの変速時に駆動用モーターでアシストすることによって、変速時の駆動力抜けによる違和感の解消を目指しています。
つい最近、ホンダ フリードハイブリッドに試乗したばかりで、i-DCDのフィーリングは鮮明に記憶していますので、スズキ方式とのフィーリングの違いも明確にインプレッションできるかと思います。
もしフリードハイブリッドに劣らないほどのスムーズ感、上質感を実現できているとすれば、より機構的に単純で、軽量かつ低コストなスズキ方式に軍配が上がることになります。
ちなみに今回のモデルからプラットフォームも一新されて、Aセグメント用の「HEARTECT」が採用されています。
前モデルまでのI.T.L式リジッドリアサスペンションからトーションビームに進化した足回り(FF車のみ)の出来栄えも、スイフト、バレーノのBセグメント用、アルト、ワゴンRの軽自動車用の「HEARTECT」の完成度から推察するに、非常に高度なものであろうと予測していました。
このソリオの市場を狙った、トヨタのタンク/ルーミーとの比較も織り交ぜながら詳細にインプレッションさせていただきます。
外観デザイン
評価:★★
コンパクトな外寸で最大限の室内スペースを実現するというのがソリオのコンセプトですので、ボディサイドとリアは地面に直角に近い絶壁にならざるをえません。
そうなると、デザイン的にはフロントフェイスでアピールせざるを得ないのですが、先代モデルは無難すぎて、なんら印象に残らないものであったと思います。
標準モデルとバンディットとの差異も明確ではありませんでしたから、さすがにスズキも今回は両モデルともインパクトのあるフロントフェイスとしてきました。
顔のインパクトはありますが、下品にならないギリギリのところで踏みとどまっていると言っていいでしょう。
悪くないと思うのですが、全体を通して見ると、僕的には 新型ワゴンR のほうが遥かに完成度の高いデザインと感じさせられます。
フロントはともかく、サイドのプレスラインやウインドウ周りのアールの取り方があいまいで、デザインのキレが全く感じられません。
そのあたり、新型ワゴンRは限られた制約の中で非常に次元の高い処理がなされているように思います。
先代モデルよりは断然インパクトが感じられますが、フェンダーやバンパー周りに立体感や彫りの深さが欲しいと思います。
フォグランプ周辺の形状も、のっぺりとしすぎているように思うのですが。
新型ワゴンRスティングレーのダイナミックな造形と比較すると物足りません。
フェンダーまで絶壁にする必要性は無いと思います。
サイドビューも平凡です。
あまり彫りの深いプレスラインは入れられない事情はあるでしょうが、スピード感や流麗さなど訴えかけてくるものがありません。
トヨタの タンク/ルーミー のサイドビューのほうが、重心が低く流麗に感じられます。
ウエストライン上部のなだらかなアールなど、どうも曖昧で印象に残らないデザインですね。
新型ワゴンRスティングレーで感じられた「ハッ」とするようなカッコ良さは、このクルマからは感じられません。
リアも無難です。
実用最重視のクルマとしてはこれでいいのかもしれませんが…
内装
評価:★★★
決して質感は低くないですし、各部の収納スペースも多くて使い勝手はいいです。
ですが、先日試乗した トヨタの ルーミー G-T のほうが内装の質感は上と感じられました。
スイッチ類のクリック感も、あちらは高級感さえ感じさせられましたが、ソリオは標準的な質感となります。
やはり後発だけあって、 ルーミー はソリオをよく研究したうえで発売してきてますね。
ですが、ソリオの質感が特段低いというわけではありませんので、こちらを購入しても落胆することは無いでしょう。
インパネの樹脂の質感はまずまずです。
高級感はありませんが、実用車としては充分以上でしょう。
ステアリングは 新型ワゴンRスティングレー と共通のようです。
こちらも充分以上の質感です。
インパネセンター周りは、視認性、操作性共に良好です。
空調操作パネルはシフトレバーの上あたりに配置したほうが使いやすいでしょう。
センターメーターはコントラストが高くて、非常に見やすいものでした。
助手席のインパネトレイあたりの樹脂の質感が若干低く感じられましたが、目くじらを立てるほどでもありません。
居住性、ユーティリティー
評価:★★★★★
ルーミー よりも若干小さい外寸でありながら、室内長は30cm以上も長いです。
実際、後部座席とトランススペースはソリオのほうが広く感じられます。
どちらも5人乗りの小型車としての実用性は最高でしょう。
シートの出来は、 ルーミー のほうが体重を分散して、じんわりと包み込んでくれるような感触が感じられました。
あちらのほうが出来は上かと思います。
やはり ルーミー は後発の強みで、いろいろな部分でソリオよりも少しだけ上をいくような造りとなっています。
昔のストリームに対抗してウィッシュを出した時のような「いやらしさ」を感じざるをえません。
シートは出来が悪いとは申しませんが、表面のハリが強くて、どちらかというと体重を点で支えるタイプと感じられました。
クラスは違いますが、新型スイフトRSt のシートのほうが明確に出来は上です。
後席も同様の座り心地でしたが、よほどロングツーリングなどをされない限りは大丈夫です。
後席足元は広大なスペースですし、左右独立してスライドが可能ですので快適に過ごせます。
このコンパクトなボディとしては、トランクスペースも驚異的な広さです。
実用車としては非常に優れています。
走りの評価 (エンジンとミッション)
評価:★★
今回試乗した、5AGSのストロングハイブリッドに限っての評価となりますが、現時点では完成度は低いと言わざるをえません。
先日試乗した 5AGSのアルトワークス と比較すると、体感的には変速スピードが倍以上遅いですし、これほどまでにタイムラグがあると、変速時のモーターアシストがあってももどかしく感じられます。
恐らく変速時のシフトショックを抑えようとしてこのようなセッティングになっているものと思われますが、僕的には若干の変速ショックはあっても アルトワークス のフィーリングのほうがよほど気持ちいいと思います。
おまけに発進時にアクセルをぐっと深く踏み込んで発進した時に、「ダダダ」というジャダーが、かなり明確に感じられました。
半クラッチの制御が上手くいっていないのか、僕が試乗した個体だけの現象なのかは不明ですが、これはいただけません。
アルトワークス では、発進時のジャダーはほぼ感じられなかったのですが、制御ロジックに原因があるようでしたら早急な改善が必要です。
逆に言うと、既に購入されたお客様にも制御プログラムのアップデートで対処できるという事ですが。
先日試乗した フリードハイブリッド のほうが、比較にならないレベルでドライブトレーンの完成度は上です。
本来であれば辛辣に星1つの評価としたいところですが、990kgの軽量ボディに通常の1.2リッターのオットーサイクルエンジンと5AGSでも充分な加速が得られるところに、モーターのアシストが加わりますので、かなり加速感は強力です。
今後熟成がなされれば、かなり走りが気持ちのいいハイブリッド車となる可能性は充分に感じられましたので、星2つとさせていただきます。
ですが、現状ではかなりの熟成不足です。
購入を予定されている方は、実際に試乗されてみて症状が改善していないようであれば、今後の改善を待ったほうがよさそうです。
走りの評価 (足まわりとボディ)
評価:★★
Aセグメント用の「HEARTECT」とトーションビーム式リアサスペンションという事で期待していたのですが、期待値を大幅に下回る出来栄えでした。
トーションビームのセッティング自体はうまくなされていると思うのですが、サスペンションを支える部分の出来栄えがよろしくありません。
あまり大きくない段差でも、「ドシン」と低級な突き上げがありますし、ボディ側の剛性感があまり感じられませんでした。
内装が擦れるような低級な音も若干聞こえました。
ボディ側の剛性が出ていない故でしょうか、コーナーでもサスペンションが綺麗にストロークしている感触が感じられずに雑味が感じられました。
これは明確に ルーミー G-T のほうが上質な乗り味と言わざるを得ません。
加えて言うならば、ボディ剛性感、段差のいなしの上質感では 新型ワゴンR にすら負けています。
これはいったいどうしたことでしょうか?
Aセグメント用の「HEARTECT」の完成度が低いのか?
ボディ剛性が低いのか?
スイフト、バレーノ、ワゴンRで、あれほどまでに高次元な走りの完成度を見せつけてくれたスズキのクルマとは思えませんでした。
スズキの国内市場においては、ソリオも重要な基幹車種ですので、全社的な知見を結集して早急に大幅なテコ入れが必要でしょう。
総合評価
評価:★★
全長3,710mm、全幅1,625mmのコンパクトなボディで、これほどの室内空間を実現しているのは凄い事だと思います。
「5ナンバー枠ギリギリだと使いづらいし、軽自動車だと物足りない」という方には、このソリオ以外に選択肢は無いと言っていいでしょう。
また、このクラスとしては強力な加速感も魅力的と言えましょう。
ですが、走りの質感においては煮詰め不足と言わざるを得ません。
ハイブリッドシステムの制御と、ボディ側の剛性に関しては早急に改善が必要なレベルです。
今回のソリオは最近のスズキ車らしくなくて、逆にビックリさせられました。
まあ、スズキにはFF車に関しての相当に高いレベルの知見を持った開発者がいるはずですので、今後の改善に期待します。
現状では積極的にオススメできるクルマではありませんでした。
ユーティリティー重視のコンパクトミニバンということであれば、僕的には フリードハイブリッド がイチオシです。
コメント