先代の発売から約7年の歳月を経て、2021年4月23日にフルモデルチェンジされた新型ヴェゼルを一般道で試乗してきました。
グレードは「e:HEV Z」のFFです。
旧型はしばらくの間クラストップの販売実績を残しましたが、これは発売当時には「コンパクトSUV」として斬新なデザインと走りが支持されたものでしょう。
しかし最近では、他社のヤリスクロス等の競合に押されて販売台数は低迷していました。
今回のフルモデルチェンジは、ホンダとしても失敗の許されないものであったはずです。
新型ヴェゼルの開発時期と当時のホンダの置かれた状況から考えても、開発メンバーのプレッシャーは相当なものであったと推察されます。
試乗の際、僕はそのようなバックボーンがあったものと仮定して新型ヴェゼルをじっくり観察しました。
総論としては、良くも悪くも手堅くまとめて来たという感想。
しかし、良い意味での「手堅さ」は、僕の予想をはるかに超えていました。
新型ヴェゼルの外観デザイン
評価:★★★
新型ヴェゼルの写真が一般公開されると、ネット上ではネガティブな反応が噴出。
やれ「CXハリアー」などと散々に揶揄されました。
これも冒頭で述べました、新型ヴェゼルの置かれた状況によるものなのです。
現在の街中SUVのトレンドは、間違いなく「スタイリッシュ&クール&上質」
トレンドリーダーは先代ハリアーと言っていいでしょう。
ホンダとしても重要な基幹車種であるヴェゼルに関して、この最新のトレンドを取り込まざるをえなかった苦しい台所事情があったのでしょう。
それは今のホンダの置かれた状況から考えても、致し方なしなのかもしれません。
昔からのホンダファンは、新型ヴェゼルのデザインを見て失望された方も多いかもしれません。
僕もそのうちの一人です。
やはりホンダには斬新さ、革新性を求め、常にトレンドリーダーたることを求めてしまいます。
しかし最近は「もう昔のような、ホンダのチャレンジングスピリットを求めるのは酷かな」と僕は思っています。
電動化時代が差し迫り、百年に一度の変革期にある自動車産業の中にあって、冒険や挑戦を社是に掲げていては、この荒波を乗り切れないという判断なのでしょうね。
つまり今のホンダは「戦に勝つ」のではなく「戦に負けない」ことを選択したのです。
勝つための戦略ではなく、いかにすれば生き残れるかに舵を切ったホンダ。
これが、吉と出るか凶と出るか。
初めて写真で見たときは「こりゃヒドイ、CX-5とハリアーの劣化コピーか?」と感じました。
しかし実車を目の当たりにすると、予想外に好印象。
曲面を多用したダイナミックな面構成ではありませんが、どこにも嫌みが感じられず、ボディ同色グリルも斬新な印象。
過剰なメッキパーツに頼らずに、上手く上質さ、迫力を表現しているクールなフロントフェイス。
これはこれでアリだと思います。
サイドビューは、エッジの効いたプレスラインとホイールアーチのブラックアウトがポイント。
この2点により実際の車高よりも低く、伸びやかなイメージを与えるサイドビュー。
クーペライクでスタイリッシュなSUVとして、非常にまとまりのいいデザインです。
グッと張り出したリアエンドは、力強さと伸びやかさを両立。
目を見張るような斬新さはありませんし、ハリアーやCX-5の影響もゼロとは言えませんが、上手くまとまっています。
この角度から見ても、リアビューには高級感が感じられます。
万人に好まれるデザインと言えましょう。
リアビューがカッコイイ車はよく売れるというジンクスがありますので、この新型ヴェゼルも例にもれず好調な販売を維持しそうです。
水平基調のリアコンビネーションランプとガーニッシュ。
これらは、実際よりも車高を低く見せることに寄与しています。
過剰なギミックやメッキパーツを排して、上品な高級感をうまく表現できているように感じられました。
良い点
全体のコンセプトは、おそらく「上質・高級・スタイリッシュ」でしょう。
ボディを構成する要素のほぼすべてが、コンセプト実現のためにうまく機能しています。
イマイチな点
目を見張るような斬新さは、一切感じられません。
他社の先行車種の影響も、ゼロとは言えないでしょう。
新鮮さはありませんので、短期間で陳腐化の恐れがあります。
新型ヴェゼルの内装
評価:★★★★★
今回試乗したのは中間グレードの「Z」ですが、それでもクラスを越えた上質さが感じられました。
先代ヴェゼルの内装もスポーティーで悪くないものでしたが、建付けの良さ、細部の造りこみ、高級感では新型のほうが比較にならないほど優れています。
手の触れる場所や目につく場所にはソフト素材も奢られていて、まるで高級車のような質感。
この車からは、価格以上の高級感が感じられました。
私の主観では文句の付け所は皆無です。
ですが一点だけ。
送風口などに配されている丸いロータリーノブですが、この外周のシルバーの部分がいかにも銀メッキといった見栄えで、少々安っぽく感じられます。
加えて、そのノブの回転音も「カチッ、カチッ」という軽いもので、クリック感もどこか安っぽく感じられました。
もう少し重厚な配色とクリック感にしたほうがいいでしょう。
黒一色で遊び心は皆無。
ですが、車両コンセプトには合致しています。
車内の素材、デザインはキメの細かい配慮が行き届いていて、安っぽく感じられる部分はほとんど存在しません。
高級感と上質感が感じられる内装です。
フロントシートの座り心地、ホールド感も上々で、非常にリラックスできます。
先代とは比較にならないほどに、高級感は向上しています。
フロントシートはSUVというイメージとは違い、フロントウインドウ上端が額に近く感じられ、天井もあまり高くない印象。
悪く言うと少し閉塞感が感じられますが、これも慣れかと。
僕には心地よい包まれ感、拘束感と感じられ、スポーツカーに乗ってるような一体感が感じられました。
クーペライクなスタイリッシュSUVと考えると、これで正解でしょう。
広々とした解放感をお求めの方は、他の車種を選択すべきです。
助手席にご乗車の方も、高級感、上質感を実感されることでしょう。
全グレードでナビが標準装備というのは考えもの。
ディスプレイオーディオを標準にして、ナビをオプションにしたほうが車両価格を抑えられたのではないかと思います。
地図の自動更新が売りですが、少額とはいえ月額料金も掛かってしまいます。
スマホアプリならば、無料で常に最新の地図情報です。
ナビ自体の出来は全く問題なし。
視界に入る部分、手に触れる場所の質感は充分に配慮されています。
あえてケチを付けるような部分も見当たりません。
センターコンソールのプラスティック部品の品質が、特に低いわけではないのに相対的に安っぽく見えてしまいます。
ここは、もう少し頑張って欲しかったところ。
本革巻きハンドルの革の質感、手触りが素晴らしく上質。
いつまでも握っていたいと思わせるほどのもので、大衆車との違いを感じさせられます。
メーターは華はないですが、落ち着いて上質。
視認性も全く問題なし。
良い点
とにかく細部にわたって配慮が行き届いている。
クラスを越えた高級感が感じられる。
僕の主観では、ほとんどケチを付ける部分がありませんでした。
イマイチな点
強いてあげれば、上記のロータリーノブの配色とクリック感の軽薄さ。
相対的にですが、センターコンソールの樹脂の質感も気になります。
新型ヴェゼルの居住性、ユーティリティ
評価:★★★★
フィットベースのシャーシーを採用していて、やはりセンタータンクレイアウトの恩恵は大。
後席足元のスペースは広大で、後席座面のチップアップ(跳ね上げ)、トランクスペースのフルフラットも可能。
ただ、室内高は低いので、天井にロッドキーパーを取り付けて釣竿を乗せる用途には適さないかも。
釣行用に購入を考えている方は、しっかりと確認してください。
後席足元は足が組めそうなほどの広大な空間。
センターコンソールにエアコン吹き出し口もあって、前席両サイドにも後席に向けた吹き出し口があります。
長距離移動も快適にこなせそう。
天井のゆとりはあまりありませんが、それでもよほどの長身でなければ頭がつっかえることは無いでしょう。
後席座面がダイブダウン(沈み込み)して、トランクスペースが完全フルフラットになるのは大きな強み。
長尺物の積載も余裕でしょう。
あまり長身の人でなければ、このスペースで車中泊も可能かと。
助手席も運転席同様、広々とした解放感というより若干の閉塞感が感じられますが、長距離移動の際はむしろこのほうが疲労感は少ないかもしれません。
良い点
センタータンクレイアウトの恩恵は大きい。
フィットと同様、後席の足元スペースは広大で便利なシートアレンジは他社にはない強み。
イマイチな点
少し天井が低く感じられるのが難点。
釣竿を積む、長身の方が乗車する、などの場合は不便が感じられるかもしれません。
新型ヴェゼルの走りの評価 (エンジンとミッション)
評価:★★★★
2モーター式ハイブリッドe:HEVは、4代目フィットの試乗ではいい印象を受けなかったのですが、今回はなぜか好印象。
4代目フィットでは、もっさりとしたメリハリのない加速フィールと感じましたが、新型ヴェゼルではエンジン・モーターともに出力アップしていたためか、i-DCDの胸のすく加速フィールと比べても大きな遜色は感じられませんでした。
加速感は0-100kmで8秒台前半といった感じ。
日本国内では十分以上の加速性能。
SUVということで、悪路や雪道での走行を考慮すると、むしろ変速の段付きの無いe:HEVのほうが適しているかもしれません。
恐らくフィットの時よりも感性に沿ったチューニングも進んでいると思われ、爽快感、気持ち良さといった点でi-DCDにもう少しのところまで迫っています。
これならば走り好きの方にもオススメ出来ます。
良い点
普段の街乗りでは静粛で段付き感もなく、いざという時のレスポンスも素早い。
踏み込んだ時のエンジン音も4代目フィットと比べてもかなり心地のいい音色で、爽快感が感じられるものでした。
雑味のある音は排除され、気持ちのいいエンジン音だけが聞こえてくる感じ。
エンジン回転数のステップ制御も、実際の有段ミッションと比べても違和感が無くなってきているようです。
イマイチな点
i-DCDでは感じられた、アドレナリンが湧き出るような高揚感は薄い。
スムーズで充分に速いものの、何かが足りないように感じられます。
しかし、最新車にi-DCDのフィールを求めるのは儚いノスタルジーなのでしょう。
これからは電動モーターでいかに高揚感、爽快感を感じさせるかがメーカーの腕の見せ所かと。
新型ヴェゼルの走りの評価 (足まわりとボディ)
評価:★★★★★
同一コース、同一条件の試乗で好印象だった、現行シビック、エクリプスクロスを凌駕するサスペンション。
スピードが乗った状態で大きな段差を越えても、底付き感や衝撃が全く感じられない驚愕の懐の深さ。
外乱に対してもボディの揺すられ感は極少。
唯一、新型N-WGNだけがこれに近い乗り味を実現していると思います。
ハンドリングは安定志向の弱アンダー。
交差点ではSUV特有の上屋がぐらっと傾く感触は皆無で、ボディは水平を保ったまま平行移動するような感じ。
アジャイルハンドリングアシストが効いているのでしょう。
乗り心地は堅くもなく柔らかくもなくで、ストロークに一切の雑味が感じられない上質さ。
時おりトーションビームらしさが顔を出すものの、背の高いSUVでこの乗り心地と操安性のバランスは素晴らしいと思います。
N-WGN以降のホンダの「アシ」は、なにか尋常じゃない凄みを感じます。
良い点
強固なボディ剛性、見事なサスペンションセッティングで、どんな路面でも安心して運転できます。
イマイチな点
時おり顔を覗かせる、リアサスのトーションビームらしさ。
注意して観察すればトーションビーム特有の頭を左右に揺すられるような動きがありますが、全く気にならないレベル。
新型ヴェゼルの総合評価
評価:★★★★
スタイリッシュで上質、実用性も高く燃費も上々。
コンパクトSUVとしてはかなり完成度の高い車と言えます。
昔からのホンダファンには響かないでしょうし、現在旧型ヴェゼルを所有されている方は「i-DCDのほうが気持ちいい」と感じて、乗り換えない選択をされる方もいらっしゃるでしょう。
ですが、まさに今現在のトレンドのど真ん中で完成度の高い車種というだけあって、この新型ヴェゼルは年内納車もおぼつかないほどに爆発的に売れている状況です。
実際に試乗すればどなたでも体感できるかと思いますが、外観、内装、乗り味の全てにおいて圧倒的なクオリティを持ち合わせた車です。
これだけのクオリティアップを果たしていて、旧型ヴェゼルよりも15万円程度の価格上昇で抑えているところも高評価です。
あまりオリジナリティが感じられないのと全てにおいて保守的に感じられた点で、総合評価は星4つとさせていただきます。
でもねぇ…
ここまでのクオリティは、過剰と考える方も大勢いらっしゃることでしょう。
最低限の装備で低価格の、昔のシティみたいな車が恋しいです。
良い点
圧倒的高品質。
品質に対するコストパフォーマンスの高さ。
イマイチな点
オリジナリティが希薄。
純正ナビが標準装備。
ナビのレスオプションが欲しい。
新型ヴェゼルの試乗動画
実際の走行フィールはこちらの動画をご覧ください。
僕のYouTubeチャンネル も、閲覧&チャンネル登録して頂けましたら幸いです。
コメント
コメント一覧 (3件)
どうも、初めまして。動画での試乗した車の色はプラチナホワイトパールですか、それとも新色のプレミアムサンライトホワイトパールですか?
自分も悩んでいるので、よろしくお願いします。
hiroさん、はじめまして。
試乗した車の色は、ちょっと水色っぽいプレミアムサンライトホワイトパールでした。
光の具合で紫っぽく見える時もあって、なかなかいいカラーだと思います。
ありがとうございます。
悩ましいですね。
来年車検なので、じっくり参考にさせていただきます。