遅ればせながら、2021年9月3日に日本で発売となりました11代目新型シビックの試乗レポートをお届けします。
試乗したグレードはEXで、ミッションはCVTです。
巷での新型シビックの試乗レポートや試乗動画は大絶賛の嵐で、先代のシビックとは比べ物にならないほどの出来であるとの持ち上げっぷり。
時間は短かったのですが、一般道でじっくりと試乗しての結論を先に申し上げます。
噂通りの出来の良さだが、先代ユーザーは乗り換え必至というほどでもない。
というのが、試乗後に僕の抱いた感想です。
それでは詳細に解説してまいります。
最後までご覧いただけたら幸いです。
新型シビックの外観デザイン
評価:★★
新型シビックの車両コンセプトは「爽快」ですが、外観は「上質・スタイリッシュ」といったコンセプトのもとにデザインされているようです。
先代シビックの地を這うような迫力やダイナミックなプレスライン、他に似ているものがないと感じさせる斬新なデザインからは決別して、現代のトレンドに沿ったものとなっています。
外観のそこかしこにはアウディの影響が感じられ、「これぞシビック」というような個性は個人的には全く感じられませんでした。
先代と比較して「子供っぽいデザインが上質に進化した」であるとか、「先代はガンダムチックで幼稚なデザインだった」などとこき下ろすような論調が見られますが、僕は全くそうは思いません。
この11代目新型シビックのデザインに関しての僕の主観は、
世の中のトレンドに擦り寄った、冒険を恐れたつまらないデザイン
です。
9代目は北米シビックも欧州仕様も失敗とまでは言いませんが、華々しい成功を収めることが出来ませんでした。
特に北米仕様はありきたりで無個性、まるでカローラのようなデザインでモデル末期にはかなり苦戦していたため、早めのフルモデルチェンジとなったように記憶しています。
そんな状況下で登場した先代の10代目シビックは、ワールドワイドで大成功を収めました。
リアサスが独立式になって走りの進化も大きかったと思いますが、シビックの歴史に残るほどの大成功の要因は独創的なデザインによるところも大きかったのではないでしょうか。
そして11代目で再び保守的になるんですか?
正直僕には理解不能です。
欧州車を無批判に絶賛するわけではありませんが、欧州車はアウディA4やVWゴルフ、ベンツCクラス、BMW3シリーズなど、どれもその車種のアイデンティティを維持したままでモデルチェンジしています。
時にはそれが保守的に感じられることもありますが、そのモデルが持つイメージを大事にするいうことは大切なことではないでしょうか?
いかにもシビックを名乗るにふさわしい先代シビックのデザインをブラッシュアップする方向ではなく、完全に捨ててしまった今回のモデルチェンジには、個人的には大いに落胆させられました。
まるでギャランを思わせる逆スラントのフロントマスク。
今回の新型シビックで唯一アグレッシブに感じられるポイントですが、全体のデザインテイストからは浮いていますし斬新なデザインでもありません。
フロントエンドに向かうダイナミックな絞り込みもなく、平凡なおっさんセダンといった出で立ち。
いつかどこかで見たような・・・
おまけにグリルの無塗装樹脂が、なんとも安っぽく感じられます。
ボディカラーが黒だとあまり目立ちませんが、明るめのカラーだと安っぽく感じられることでしょう。
フロントフェンダー上部の、まるで2階建てのような厚みが意味不明です。
サイドビューの直線基調を演出したかったのでしょうが、もう少し3次元的にデザインしたほうがいいのではないでしょうか?
フロントとサイドを別々にデザインして、無理やり融合させたような平板なデザインです
フロントフェンダー上部ののぼってりとした厚みが、目指すところのスタイリッシュさを損なって全てを台無しにしているように感じられました。
なんとも抑揚のない平板なサイドビュー。
先代のダイナミックな曲面は消え失せてしまいました。
横一直線のプレスラインで伸びやかさを演出したいのでしょうが、フロントエンドでバッサリと切れる逆スラントノーズがアンバランスに感じられて、寸詰まりの不自然な感覚を抱かせます。
フロントフェンダーの上部がぼってりと厚く感じられるのが、なんともスタイリッシュではありません。
おそらく元ネタにしたであろうアウディA7スポーツバックは、この辺の処理は実にうまくこなしているのですが…
うん、アウディA7スポーツバックみたいでかっこいいです(笑)
Cピラー以降はダイナミックでスタイリッシュに感じられて好印象です。
が、オリジナリティは希薄ですね…
リアデザインは上質、スタイリッシュ、そこそこアグレッシブでよくまとまっていると思います。
どなたが見ても、かっこよく感じられるでしょう。
良い点
Cピラー以降のデザインは悪くない。
リアデザインがかっこいいクルマは売れるというジンクスがあるので、日本国内でもそこそこのセールスを記録するかもしれません。
イマイチな点
全体に感じられるアウディA7の影響。
アウディA7のようなクルマにしたかったのでしょうが、フロント周りのデザインが全てを台無しにしています。
シビックらしさもオリジナリティも感じられないデザイン。
劣化版の寸詰まりアウディA7と総括させていただきます。
新型シビックの内装
評価:★★★★
先代と比較して、質感と機能性向上の幅は大きいです。
が、先代から失ったものもあります。
まずは先代からフロントシートのヒップポイントが3cmも高くなっている件。
これは乗降性と見晴らしの改善を目指したものでしょうが、先代では運転しているとまるで地を這うような感覚が感じられたのですが、新型では普通のセダンに乗っている感覚になりました。
乗り降りや運転のしやすさという意味では改善になりましょうが、先代のスポーツカーを運転しているような感覚は完全と言っていいほどに消え失せています。
これには、ドライビングシート周りの包まれ感がなくなったことも影響しています。
先代はスポーツカーのような包まれ感があるコックピットだったのですが、新型は開放感のあるコックピットになっています。
これを進化と見るか退化と見るかは個人の主観でしょう。
僕は先代のほうが好きでした。
新型の「爽快」というコンセプトにつながる開放感も、それはそれで心地いいものですが、なんだか普通のセダンになっちゃいましたね。
インパネやメーター周りの質感、フロントシートの出来は大幅に向上していると言っていいでしょう。
価格に見合うだけの高級感、上質感が感じられるものです。
車内はいいもの感に溢れています。
ステアリングの本革の感触、各種スイッチのクリック感、シート表皮の触感などは高級車に近い上質感が感じられました。
この価格帯の車では完璧と言っていいほどに隙が感じられない造り込みです。
あえて苦言を呈するとすれば、送風口のメッシュ素材が掃除しづらそうで、使っているうちにホコリや汚れでみすぼらしくならないかと心配になります。
非常に掛け心地がよいハーフレザーシート。
あまり身体を拘束するタイプではありませんが、サポート性も上々と感じられました。
長距離のドライブでも疲労は最小限でしょう。
柔らかく手にしっとりと吸い付くような感触のステアリング。
うっとりとするような上質な握り心地です。
スイッチ類も最小限で、直感で操作できる配置で好ましく感じられました。
センタートンネルも隙のない造り込み。
充分に上質で、これと言ったネガは感じられませんでした。
置くだけでワイヤレス充電可能なスマホ置き場は非常に便利。
操作性良好でデザインも高級さを感じさせる空調周り。
インターナビの操作性、レスポンスも良好ですが、購入後1年以降は地図の自動更新が有料となるのはいかがなものかと…
良い点
どこを見てもどこを触っても上質さが感じられます。
先代から乗り換えの方は「おぉ~、高級になったなぁ」と驚かれることでしょう。
ヒップポイントが高くなってAピラーの付け根が後退していることもあって、運転の安楽さは向上しています。
先代のヒップポイントの低さに乗り降りしづらく感じていた方も、苦労なく乗降できるでしょう。
イマイチな点
フロントシートのヒップポイントが高くなり運転席周辺の包まれ感が無くなったことで、まるでスポーツカーを運転しているような高揚感は無くなりました。
普通のセダンのような運転感覚になってしまったのは、人によっては残念ポイントと感じられることでしょう。
新型シビックの居住性、ユーティリティ
評価:★★★★
先代ベースの改良版シャシーですが、居住性、乗降性は向上しています。
フロントは言うに及ばず、リアシートの表皮の質感や掛け心地もかなり良くなっているように感じられました。
助手席も運転席同様、開放感があって居心地のいい空間です。
同乗者には、先代よりも新型のほうが明確に好まれるでしょう。
調べたわけではありませんが、リアシートのヒップポイントも若干上げられてそうです。
先代よりも乗り降りしやすく感じられました。
またシート自体の質感やドア内張りの質感は大幅に向上していて、先代はフィットに毛が生えた程度のものだったのですが、新型は高級車と言っても差し支えないほどの高級感です。
5ドアハッチバックだけあって、ワゴン車に近いほどのトランクスペース。
サスペンションアッパーの出っ張りが少々大きく感じられますが、リアサスが独立式でありますので致し方ありません。
実用上は大きな不便はないでしょう。
リアシートは分割可倒式ですが、新型ヴェゼルのようにフルフラットにはなりません。
車中泊はちょっと無理がありそうで、そういった用途には新型ヴェゼルを選んだほうがいいでしょう。
良い点
先代よりも大幅にアップした居住性、高級感。
ドライバー以外には恩恵が大きそうです。
イマイチな点
リアシートを倒しても荷室がフルフラットにならない点。
ヴェゼルとはシャシーが違うので致し方ない部分ですが、ここはなんとかしてもらいたかったところ。
新型シビックの走りの評価(エンジンとミッション)
評価:★★★
エンジンは先代譲りの、L15C 直噴VTECターボ。
スペックは最高出力182ps、最大トルク24.5kgf・mです。
1330kg~1370kgの車重に対して充分な出力でしょう。
VTECと言っても、昔の高回転型VTECのようにバルブリフトが可変するものではありませんので念の為。
先代は20kg~30kg軽量で、ハッチバックの6速マニュアルモデルは全く同じ出力でしたので動力性能は向上しているとは言えません。
実際の加速感も、先代との違いは感じられませんでした。
しかしながら新型のL15Cエンジンは、僕の記憶が確かならエキマニ(ヘッド一体型ですが)が排気干渉の低減を狙って4-2-1の集合になっていたはずです。
そのためか、先代の「ガー」といったエンジン音から新型は「シューン」という爽やかな音になっています。
先代も豪快な感じでそれはそれで悪くなかったのですが、新型を体験してしまうと、やはり気持ちよさでは一枚上手だと思います。
加速感は0-100kmで7秒台前半といった感じで、日本国内ではこれ以上の動力性能は必要ないでしょう。
しかし出だしの加速の力強さは、今の僕の愛車の3代目フィットよりも明確に劣ります。
やはり発進時のモーターアシストの力は偉大で、いかにターボモデルとはいえモーターの瞬発力のある大トルクには叶いません。
このエンジンとi-DCDの組み合わせであったなら素晴らしいスポーツハッチとなっていたと思いますが、せめてマイルドハイブリッドでもいいですからエネルギー回生機構は欲しかったところです。
明確なターボラグは感じられませんが、街中ではハイブリッド車と比べると線が細く感じられるでしょう。
エネルギー回生の有る無しで街中では実用燃費もかなり違ってきますので、街中メインで使用される方にはお勧めできない車です。
郊外路や高速道の使用が多い方にとっては、まさに車両コンセプト通りの「爽快」な走りと感じられることでしょう。
CVTはダイレクト感があって、速度上昇と回転数上昇の違和感がほぼ感じられない優れものであったことを記しておきます。
良い点
シューンと拭け上がる爽快なエンジン音と、トップエンドまでスムーズな回転フィール。
踏み込めば「速い」と言えるほどの動力性能。
イマイチな点
モーターアシストが無いが故か、1.5リッターという排気量故か、出足の一瞬の動力性能不足。
踏めばそれなりに早いものの、ハイブリッド車に慣れた方にとっては街中はかったるいと感じられるかもしれません。
出足はもたついても昔の高回転型VTECのようにトップエンドで狂ったように盛り上がるドラマがあれば納得ですが、このエンジンには眼を見張るようなドラマはなく、普通に出来の良い実用エンジンといった趣。
新型シビックの走りの評価(足まわりとボディ)
評価:★★★★★
フロントストラット、リアマルチリンクのサスペンション形式に変更はありません。
シャシーも先代からのキャリーオーバーですが、驚異的なほどに懐の深い乗り味となっていました。
先代もボディと足回りの剛性感はすこぶる高く、大きな段差をものともしないような懐の深さがあったのですが、新型はさらに明確に進化していて、これには心底驚かされました。
大きな段差をスピードが乗った状態で通過してもボディはミシリとも言わず、ボコン、ガタンというような低級な音も皆無。
この足回りのレベルの高さは驚異的で、僕の知る限り欧州の高級車でもここまでのレベルに達している車を知りません。
それでいてロードインフォメーションも充分に伝わってきますし、もともとポテンシャルの高いシャシーだったとは思うのですが、ここまでの実力を秘めていたのかと驚かされました。
乗り心地はどちらかと言うとドイツ車的な硬めの方向性ですが、この新型シビックと比較すると名だたるドイツ車も粗野な乗り心地と感じられます。(欧州車の最新モデルは試乗してませんので断言はできませんが…)
ハンドリングは先代に比べるとマイルドになったように感じられましたが、これは高くなったヒップポイントや拘束感の無くなったコックピット、開放的な視界が影響した感覚的なものかもしれません。
新型も充分にリニアで正確なハンドリングですが、感覚的には地を這うように平行移動するような先代の凄みは影を潜めています。
良い点
乗り心地とハンドリングのバランスが見事。
路面が荒れていても安心して飛び込んでいける、ボディとサスペンションの懐の深さ。
低級な騒音、振動が皆無な、まさに「爽快」そのものの乗り味。
イマイチな点
先代と比較すると普通のセダン的な乗り味に感じられる。
ただし、異様なほどにレベルの高いセダンですが。
新型シビックの総合評価
評価:★★★★
新型ヴェゼルのときも驚かされましたが、更に明確に上を行く懐の深い乗り味には心底驚かされました。
あまり路面状況の良くない田舎道を頻繁に走る方や、高速道路の長距離移動が多い方にはおすすめです。
爽やかなエンジンとビクリともしないボディとサスペンションは、高い満足感をもたらしてくれるでしょう。
ストップアンドゴーが多い低速の市街地走行が多い方には、正直おすすめできません。
そのようなシチュエーションでは、この車の長所よりもむしろ短所のほうが目につくことでしょう。
走行エネルギー回生機構がない故の実用燃費の悪さ、ハイオク指定の燃料代の高さ、モーターアシストがない故の出足の遅さ。
それらが全く気にならないという方にとっては、税込みで約350万円という価格もリーズナブルと感じられることでしょう。
価格以上の価値は充分に感じられました。
この価格から「もはやCIVICは市民のクルマではない」などという論調も見受けられますが、これは日本にとっては正解でしょう。
しかし欧州や北米では感覚的に言って日本での200万円程度の値付けだと思われますので、ワールドワイドでは依然としてCIVICです。
日本が相対的に貧しくなっていることの証左でしょうが、仮に200万円だったとしても個人的に欲しいかと問われると微妙です。
価値観は人によって様々ですが、僕だったら100万円程度で中古のハイブリッド車を買って、浮いた差額で高級カメラとか高級オーディオ、さらにウルトラハイスペックのパソコンを購入します。
先代シビックにお乗りの方は、新型に試乗してもそんなに落胆することはないでしょう。
基本的には同一のシャシー、エンジンということもあって、乗り味の面においては予想よりも進化幅は少なく感じられました。
僕は新型に試乗して、改めて先代の出来の良さを再認識した次第です。
良い点
爽やかな吹け上がりのエンジンと大きな段差も軽くいなす余裕の足回りは、名だたる高級車を凌駕するほどの出来で、そう考えると絶対的には高い価格も安く感じられる。
一つの商品、プロダクトとしては完璧と言っていいほどの完成度。
購入後も高い満足度を得られることでしょう。
イマイチな点
フロントセクションのデザインが稚拙で全体のまとまりに欠け、車両コンセプトの「爽快」に合致していないと感じられる。
フロントグリルの無塗装樹脂が、経年劣化で白っぽくなりはしないかと心配。
高級な乗り味、内装に対してのフロントデザインのレベルの低さが残念で、全てを台無しにしていると言っても過言ではないでしょう。
早急にデザイン、素材選定の見直しが必要と思います。
新型シビックの試乗動画
実際の走行フィールはこちらの動画をご覧ください。
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