「HEARTECT」採用ベーシックモデルの実力は?
2015年6月3日から販売されている、スズキ ラパンに試乗してまいりました。
本来は、先日試乗したミライースとの比較でアルトのベーシックモデルを試乗したかったのですが、残念ながら兵庫県内にアルトの試乗車は3台しかありませんでしたので断念です。
そこでラパンの試乗となったわけですが、このクルマもスズキの軽自動車のラインナップの中では比較的廉価なベーシックモデルとなりますので、ミライースの印象が鮮明なうちに比較インプレッションさせていただきます。
今回試乗したグレードは、4つあるグレードのうち2番目に上級な「S」となります。
車両本体価格は1,285,200円です。
先日試乗した、ミライース X SAⅢが 1,080,000円ですので、約20万円高額となりますが、その点も考慮に入れて比較してまいります。
本来であればミラココアあたりとの比較が適正とは思いますが、ダイハツとスズキの最新プラットフォームの比較という趣旨の記事ですので、ご了承願います。
外観デザイン
評価:★★★★
コンセプトは、女性向けのネオクラシックデザインといったところでしょうか。
若干の無骨さが感じられた先代モデルと比べると、全体的に洗練された印象です。
ポップでキュートな、完成度が高いデザインと感じられますが、男性が乗るには少しかわいらしすぎるような気はします。
もう少し「ワルっぽさ」と言いますか、精悍な感じがあってもよかったのではないでしょうか。
なかなか両立は難しいでしょうが、このクルマが影響を受けている(と思われる)初代ミニはかわいらしさと精悍さを見事に両立しています。
デザインの基本は非常にしっかりとしていますので、動力性能面も含めて男性向けのモデルの追加も期待したいところです。
今後の期待も込めて、星4つとさせていただきます。
ミライースとは180度方向性の違うデザインコンセプトとなりますので単純比較はできませんが、安っぽさを感じさせられるような余計なラインやギミックが無いぶん、このラパンの方がよほど上質なデザインであると思います。
ただキュートなだけではなく、上質感があるフロントフェイスと言えましょう。
うるさく感じられるような余分なラインもありません。
シンプルでありながらも、面構成はよく練りこまれているように感じられました。
ボンネットまわりのチリ(隙間)が大きいのは、デザイン上、あえてそうしているものでしょう。
レトロ感と新しさがうまく両立しています。
シャープなプレスラインは一切使用せず、全て滑らかな曲面で構成されたデザインは、このクルマのコンセプトとも合致して一貫性が感じられました。
ボディサイドを貫く柔らかなプレスラインにより、安定感と凝縮感が感じられるサイドビューです。
ホイールハウスとタイヤとの隙間が大きすぎるように感じられるのがマイナスポイントですね。
Cピラーまわりのデザインは力強さと塊感が感じられるもので、よく練りこまれているように思います。
リアビューはシンプルでありながら、レトロ感、新しさ、インパクトが感じられ、フロントフェイスとの整合性も取れています。
内装
評価:★★★
僕の主観ではかなりの酷評となったミライースの内装と比較すると、使用されている素材の原価はさほど変わらないと思いますが、デザインと配色のセンスの良さで、こちらの方が圧倒的に上質に感じられます。
よく考えて工夫したであろう痕跡が感じられました。
例えるなら、ミライースは安い素材を、ぞんざいに調理した不味い料理です。
「素材が安いんだから、不味くてもしょうがないでしょ!」
といった、開き直りが感じられます。
対してこちらは、
「素材は安いけど、どうしたら美味しく感じてもらえるかな?」
と工夫された、それなりに美味しい料理です。
Aピラーが立っていますので、車高のわりには開放感があります。
フロントシートは、かなり柔らかめで身体全体をふんわりと包み込んでくれるような感触でした。
ロングツーリング耐性はわかりませんが、街乗りにおいては快適な座り心地です。
このフロントシートだけでも ミライース とは比べ物にならないほど上質です。
高級感はありませんが、ポップでシンプルなデザインと明るい配色により、上質感が感じられました。
木目調のパネルも安っぽく見えずに、むしろ好ましく感じられるものです。
アームレストも付いていますので快適ですね。
内装の素材自体は廉価なものを使用しているのでしょうが、どこを見渡しても、決して安っぽく見えません。
デザインや凹凸の出し方、アールの取り方などが巧みなのでしょう。
この価格で本革巻きステアリングは異例です。
「ドライバーが直接触れる部分の質感はできる限り高めたい」ということでしょう。
非常に上質な握り心地でした。
スズキは他の車種の比較的廉価なグレードでも、本革巻きステアリングが採用されている例が多いです。
ウインドウスイッチ周りも、使用されている素材は安い物でしょう。
ですが、安っぽさは感じられません。
明るくて、解放感があって、このクルマのキャラクターに合致した、好ましい内装と感じられました。
マニュアルエアコンの操作パネルです。
アルトのベーシックモデルと同一のものと思われます。
どうですか?
素材自体の質感は ミライース と大差ないでしょうが、デザインや配色、段差の部分の処理に細かい配慮がなされていて、決して安っぽくは見えないと思うのですが。
樹脂のシボのデザインもセンスが感じられます。
さすがに高級感はありませんがね。
居住性、ユーティリティー
評価:★★★
前席、後席ともに、充分な頭上と足元の空間が確保されています。
ミライース との比較では、リアサスの出っ張りはこちらの方が小さく感じられますし、リアシートも分割可倒が可能です。
身長175cmの僕がドライビングポジションを合わせた状態です。
後席の足元空間は充分以上の余裕があります。
トランクスペースも想像以上に広い物でした。
僕が昔乗っていたスイフトと大差ないスペースです。
走りの評価 (エンジンとミッション)
評価:★★★
搭載されている自然吸気3気筒R06A型エンジンは、 ワゴンR や アルトワークス と基本的なフィーリングは同じです。
軽自動車用の3気筒エンジンとしては回転フィールはスムースで、エンジン音もマイルドで心地のいいものです。
680kgの車重に対して、52PS/6.4kg・m の出力ですので、決して早くはありません。
ミライース は、670kg車重に対して、49PS/5.8kg・mですから、数値上の動力性能は互角と言えますが、実際の加速感はラパンの方が明確に上で、よりリニアな加速感と感じられました。
特にトルク感は明確に上回っているように思います。
JC08モードの数値は、ラパンが35.6km/Lに対して、ミライース は34.2km/Lとなります。
意外なことにモード燃費もラパンの方が上回ってたんですね。
軽自動車の自然吸気エンジン搭載車としては、ミライース は論外として、ホンダのN-ONEよりもずっと気持ちのいい加速感があります。
参考までに動画もご覧ください。
僕のYouTubeチャンネル も、閲覧&チャンネル登録して頂けましたら幸いです。
走りの評価 (足まわりとボディ)
評価:★★★★★
これは素晴らしい!
この乗り心地には心底ビックリさせられました。
足回りの設定はかなり柔らかく、大きな段差でもボディが揺すられる動きが全く感じられず、サスペンションだけで軽やかにいなしてしまいます。
ここまで柔らかい設定なのに、カーブで腰砕けになることもなく、ロールは大きいですがグッと踏ん張ってくれます。
もちろん直進でもふらつきは皆無で、しっかりと芯が感じられる乗り味です。
これは、出来のいいフランス車の乗り味そのものと言っても過言ではありません。
新開発プラットフォーム「HEARTECT」の実力は大したものです。
ここまでアシを動かしても破綻しないとは…恐れ入りました。
言うまでもないですが、トーションビームの悪癖も皆無でありました。
これはもう軽自動車の乗り味じゃないです。
おそらく、このクルマは「軽自動車の枠内で、最大限上質な乗り心地を実現する」という明確なコンセプトのもとに開発されています。
そしてそれは見事に成功していると言ってもいいでしょう。
その点をスズキはもっとアピールした方がいいですし、ジャーナリストもユーザーに伝える使命があるのではないでしょうか?
ここまでの上質な乗り心地は下手な普通車を軽く凌駕するものですし、ミライース は比較対象にはなりえません。
次元が違いすぎます。
20万円の価格差以上の価値は、充分にあると断言できます。
総合評価
評価:★★★★
この乗り心地だけでも「買い」ですし、トータルで見ても現状で完成度は高いですが、この乗り味を維持したままで、もう少しだけでも動力性能が高まれば完璧なクルマとなりましょう。
故に星4つとさせていただきます。
マイルドハイブリッドかターボが付いたグレードが欲しいところです。
このラパンをベースにしてワークスを作ってもカッコいいクルマになりそうですね。
余談になりますが、いつも試乗には仕事用のシビックで出かけているのですが、ミライース の試乗後は、
「シビックのほうが比べ物にならないほど上質な乗り心地やなぁ。エンジンも静かで加速も段違いやし、あれと比べたら高級車やな」
と感じました。
ですが、ラパンの試乗後は、
「乗り心地は完全に負けとる…動力性能は勝ってるけど、突き上げもキツイし、さすがに古臭く感じるなぁ」
と感じられたんです。
どうでしょうか?
これで、ダイハツとスズキのベーシック軽の出来の違いが伝わりますでしょうか?
コメント